Netflix実写ドラマ『地面師たち』は実話がベースです。
積水ハウスが地面師に騙された事件が題材になっています。
2017年6月1日に、積水ハウスが地面師グループに土地の購入代金として50億円以上を騙し取られた事件がありました。
なぜ大手メーカーの積水ハウスは地面師に騙されたのでしょうか。
本記事ではNetflix『地面師たち』と照らし合わせながら、積水ハウスの事件の流れを見ていきます。
Netflix『地面師たち』のあらすじ
作品名 | Netflix『地面師たち』 |
---|---|
公開年 | 2024 |
話数 | 7 |
不動産取引における詐欺師グループを『地面師』と呼ばれています。
いわばチームプレイで不動産業者を騙していきました。
ある日、詐欺集団のリーダーであるハリソン山中は言いました。
「もっと大きなヤマを狙いませんか? そうですね……死人がゴロゴロ出るようなヤマです」
不動産における詐欺のスペシャリスト集団である地面師たちが、狙った獲物は一等地の寺が所有する土地でした。
市場価値なんと約100億円です。
キャスト一覧
辻本拓海 – 綾野剛: 地面師グループの冷静な交渉役
ハリソン山中 – 豊川悦司: 地面師グループのリーダー
竹下 – 北村一輝: 詐欺の対象となる土地の情報屋
後藤 – ピエール瀧: 書類偽造や交渉を担当する元司法書士
麗子 – 小池栄子: 地主の「なりすまし犯」を用意するキャスティング担当
長井 – 染谷将太: 公的文書を偽造する職人
オロチ – アントニー: 竹下の子分
辰 – リリー・フランキー: 警視庁捜査二課の警部
倉持 – 池田エライザ: 警視庁捜査二課の巡査部長
青柳 – 山本耕史: 大手デベロッパーの開発部長
須永 – 松尾諭: 石洋ハウスの役員
川井菜摘 – 松岡依都美: 光庵寺の住職
楓 – 吉村界人: ホストクラブのナンバーワン・ホスト
真木 – 駿河太郎: 新興の不動産デベロッパーの社長
林 – マキタスポーツ: 不動産ブローカー
原作は小説『地面師たち』
Netflixオリジナルドラマは、小説『地面師たち(著:新庄 耕)』を原作としています。
この原作小説は「積水ハウス地面師詐欺事件」をモデルに執筆されています。
事件の舞台となったのは「海喜館(うみきかん)」(東京都品川区)です。
時価100億円とも言われ、不動産業界では噂の土地でした。
積水ハウスが騙された事件の概要
事件の舞台は山手線五反田駅から徒歩3分の立地にある旅館「海喜館」です。
好立地なこともあり、不動産業界では注目の案件でした。
積水ハウスは所有者を名乗る女と、約600坪の旅館敷地を大金で購入する売買契約を締結しています。
売買代金50億円以上を積水ハウスは支払いました。すぐに所有権移転登記を申請するためです。
しかし、その交渉はすべて地面師グループが行っていたため、売買は成立しませんでした。
地面師グループが「海喜館」の土地を狙った経緯
旅館「海喜館」の所有者の元にはリーマンショック前あたりから、デベロッパーなどの不動産会社の社員がウロウロしていました。
ですが所有者が土地の売却を拒んでいます。
「海喜館」は2015年3月に廃業となりましたが、所有者は売却せずに旅館に住み続けていました。
この状況に目をつけた地面師グループが「海喜館」の土地を狙ったのです。
地面師グループの詳細な手口
まず地面師グループは転売目的で海喜館の土地を購入しようとする中間買主を見つけました。
その後、マンション事業を行う積水ハウス事業部の営業次長に、元旅館「海喜館」の土地を売却する話を持ち込みます。
地面師グループと中間買主は積水ハウスの次長・課長と条件面の打ち合わせを行います。
その際「所有者はマンション購入資金として3億円の調達を急いでいます。
申込証拠金だけだと翻意するかもしれません。
他にも購入希望者は沢山いるので急いだ方がいいですよ」と地面師はそそのかします。
すぐに積水ハウスは稟議決裁を行いました。
あっという間に売買契約を締結
海喜館を一旦、中間買主が買取り、それを積水ハウスが買う。
契約通りに、話は進んでいきます。
売買の窓口となった「IKUTA HOLDINGS株式会社」(千代田区永田町)に所有権移転の仮登記された後、積水ハウスに移転請求権の仮登記がなされています。
6月1日に残金の支払いが行なわれ、建物取り壊し後に支払う留保金を除いた残金が支払われました。
ですが6月6日、法務局から不動産の本登記却下の連絡が入りました。
ここで偽の所有者である地面師から、積水ハウスは土地を購入していたことが判明します。
支払った50億円以上のお金は、ほとんど戻ってきていません。
なぜ大手メーカーが地面師に騙されたのか
積水ハウス地面師詐欺事件、実は地面師たちの巧妙な手口だけが原因ではありませんでした。
実は会社組織ならではの闇が、事件の裏にはあったのです。
ここからはドラマ『地面師たち』のネタバレを含みながら、なぜ積水ハウスがどのように騙されていったのか。
詳しく見ていきましょう。
積水ハウスが騙された裏に社長案件
積水ハウスの地面師事件は「海喜館の土地を売りたがっている」という情報がもたらされたことから始まりました。
都心の一等地にあるこの土地は、多くの不動産業者が注目していましたが、地主が「絶対に手放さない」と有名でした。
積水ハウスの阿部俊則社長は本取引を「社長案件」として進めていきます。
異例のスピードで社内決裁を進めたのです。
それら一連の様子は、ドラマ『地面師たち』における青柳(山本耕史: 大手デベロッパーの開発部長)の動きそのものです。
ドラマと実際の違い
- 海喜館の土地ではなく、一等地の寺が所有する土地になっている
野村不動産からの警告があった
ドラマ『地面師たち』では青柳のライバルである社内の幹部(青柳とは敵対関係)が、異例のスピードで社内決裁を進めていく様子を見て「地面師に騙されていないか」と忠告しています。
ただそんな警告を、青柳は鼻をフンと鳴らして、一蹴。
実際の事件では、どうだったのでしょうか。
野村不動産が積水ハウスに「海喜館」の土地取引を警告していたのです。
その理由は明快で、「海喜館」の土地取引を調査した結果、詐欺だと結論づけていたからです。
野村不動産は「海喜館」の土地の情報を不動産業界内で共有していて、積水ハウスが取引を始めると担当者に直接、警告をしていました。
野村不動産の担当者は地主を名乗る人物の顔写真を使って「面通し」を行っており、偽物であることを確認していたのです。
それでも積水ハウスは、社長案件の命のもと、取引を強行していきます。
ここから積水ハウスの地面師事件とドラマ『地面師たち』の共通点を見ていきましょう。
積水ハウスの地面師事件とドラマ『地面師たち』の共通点
- 異例のスピードでの決裁: 稟議書は通常の手続きを経ず、異例のスピードで決裁された
ドラマ『地面師たち』では社長が現場を見た後「社長が視察したメモ」を残して、他の役員に決裁を取っていました。
最後に社長がハンコを押して、「社長が視察したメモを消す」という手法です。
ただ実際はもっと強引で、社長が視察した後、すぐにハンコを押していました。
その後で社長が決済済みの稟議書を、他の役員たちに回していったのです。
- 不十分な審査: 稟議書の審査が十分に行われず、信用調査や取引相手の変更に関する情報が不十分だった
- 警告の無視: 野村不動産からの警告を真剣に受け止めなかった
ドラマでは主に、警告の部分は社内の幹部(青柳とは敵対関係)が一任していました。
ある意味、この幹部がドラマ内で一番、有能だったのかもしれません。
本物の地主からの内容証明郵便が届いていた
積水ハウスには偽地主との売買契約後に、本物の地主を名乗る人物から「私は取引していない」との内容証明郵便が届きました。
ところが会社はそれを「怪文書」扱いして、前金15億円の支払いに続いて、49億円を支払う本決済の日を2ヵ月近くも前倒ししていました。
ドラマでも同様のシーンがあったが、意味合いは少し異なる
ドラマ『地面師たち』でも本物の地主を名乗る人物から「私は取引していない」との内容証明郵便が届いています。
ですがドラマの場合、ストーリーから考えるに本人が出したとは思えません。
後に、ハリソン山中を裏切る情報屋の竹下が計画を邪魔するために、内容証明郵便を送っていた。
個人的な見解ですが、その可能性が最も高いと考えています。
積水ハウス社内による負の連鎖
以上のように、積水ハウスが地面師に騙された理由には複雑な事情が入り乱れています。
ここで地面師たちの甘い誘いに乗ってしまった負の連鎖をまとめました。
社内の力学: この取引は「社長案件」として進められており、阿部俊則社長の強い後ろ盾があったため、下の者は取引を進めるしかなかった
競争意識: 都心の一等地である「海喜館」の土地を他の競合他社に先んじて取得したいという焦りがあった
内部の圧力: 社内での決裁が異例のスピードで進められ、取引を成約させることが最優先とされていた
警告の無視: 野村不動産からの警告や本物の地主からの内容証明郵便を「怪文書」として扱い、真剣に受け止めなかった
様々な要因が重なり、積水ハウスは他社の警告を無視して取引を進めてしまったのです。
詐欺事件の後
詐欺事件が発覚すると、積水ハウスの不動産部長が責任を取らされました。ただ取引を進めた者は会社に守られました。
この失態を踏まえ、和田勇会長は阿部社長の解職を提案しています。
ですが否決されてしまい、なんと逆に和田会長が解職させられるという「クーデター」が発生しました。
調査書を非公開に
阿部社長はその後も権勢をふるい続け、事件についての調査報告書を非公開にしています。
この事件は、社内の力学や「社長案件」としての進行が大きな要因となっていました。
地面師たちの悪行だけではない、社会の闇が垣間見えた事件でした。
まとめ:積水ハウス地面師詐欺事件のおさらい
- 阿部俊則社長: 和田勇会長の影響力を避けるため、マンション事業を重要な権力基盤としていた
- M本部長: 阿部社長の後ろ盾を受け、異例のスピードで社内決裁を進める(ドラマの青柳)
- 社長案件: 阿部社長が自ら現地を視察しており、社内で「社長案件」として進められていた
- 警告無視: 野村不動産からの警告や本物の地主からの内容証明郵便を無視した上で、取引を強行した
このように積水ハウス地面師詐欺事件は、地面師の悪行ばかりの側面だではありません。
積水ハウス側から見ても、負の側面が至る所から垣間見えてくるのです。
そして実際の事件と同様に、『地面師たち』のハリソン山中や辻本拓海にはモデルとなった人物が実在しています。
実在したモデルに関しては以下の記事に、詳しく書いています。
参考URL:
https://bunshun.jp/articles/-/63660
https://gendai.media/articles/-/100528?page=4
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO36541070W8A011C1CC0000/